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『短く小さな命が伝えくれたこと』

2012年2月29日

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裕貴は18トリソミーという短命の染色体異常の病気を抱えていました。彼が私のお腹にいた10ヶ月と、出逢えた4日間。沢山の奇跡と彼からのメッセージ…そして、家族の絆がありました。彼の存在を長女が私に教えてくれました。妊娠4週のことでした。27週中期に羊水過多、胎児発育遅延、心室中隔欠損がわかり、転院し精密検査を受けることになりました。自分がいざ病院から説明された時に、冷静に受け止めれるよう自分の症状をネットで調べ、病名やその知識、内容をたくさん調べ尽くしました。良いことは何も書いてなく涙もしましたが、そのおかげで想像通りの結果に、落ちついて先の質問をすることができました。泣きながらもペラペラしゃべる私に対し、パパは言葉が出ずにいました。ママって意外に強いんです。

お腹に抱えているこの子を思うと、心が痛みました。その一方、この子の運命と生命力にかけて温かく見届けたいと強く思いました。短命と言われる18トリソミーは初期流産が95%、出生後1週間以内に半数が死亡、NICUから3〜4人に1人が退院でき、90%が1才までに亡くなってしまうというものです。簡単な手術でもリスクが高いため、私たちは自然な生命力にかけて、長らえる限りの貴重な命を一緒に過ごしたいと先生にお願いしました。

その中で出来ることを彼にしてあげたい。食道閉鎖を患っていたら母乳を綿棒で湿らせて、舌で味あわせてあげたい。母乳風呂に入れて匂いで安心させてあげたい。お姉ちゃんに会わせてあげたい。カンガルーケアをしてあげたい。先生にお願いしたところ母性科、新生児科、遺伝科、ソーシャルワーカーの方々が「一緒にがんばりましょう」とおっしゃって下さいました。

それから臨月まで増える羊水を3回抜きました。羊水が増えると胎動が感じにくく、ある夜「今日は1日中動いた感じがなかったけど、ママのお腹から出る時って怖くない?」と語りかけました。するとお腹からトントンと返してきたんです。「大丈夫だよ!」と言ったようでした。上の子の時は何も問題なく、のびのびとマタニティ生活をおくっていましたが、今回は大きな壁と共に悲しさや不安の中、真逆の方向からふと感謝する気持ちなど、まだ対面もしていない赤ちゃんが『家族を大切にね』と体をはって大切なことを気づかせてくれているようです。家族の絆や命の尊さ、長女の成長の幸せなど…改めて感じることがありました。

臨月まで自宅安静で張り止めを飲んで過ごしてましたが、いざ臨月になり薬をやめると、今までのお腹の張りがウソのように体が動けていました。あれよという間に予定日を過ぎ自然陣痛を待っていましたがお産らしき兆候はまるでなく「お腹の中にいたいんだよね?でももう出る時なんだよ。怖いけど大丈夫よ。ママと一緒に頑張ろう」と語りかけました。先生から「心拍数字が辛いようだったら見えないようにしますか?」と聞かれましたが、今までも覚悟してきたわけで、私は数字を見ながら彼と一緒に頑張りたいと伝えました。16時には頑丈で開きにくい子宮口も7cm開き、一気にいきみたくなってからは猛スピード。分娩台にあがって18分のスピード出産。そこだけはさすが経産婦でした。

「産まれましたよ」一瞬赤ちゃんを見せてくれた直後に、心臓マッサージが始まりました。泣きもせずくたっと目をつむっていました。先生と一緒に「裕くんがんばって!」と叫びました。「お母さん裕くんをお預かりします」と別室につれていかれてる間「あれが最後なのか」と涙していました。しばらくして「おかあさん、裕貴くん自立呼吸してくれましたよ」と。分娩室に戻って裕貴は胸元でカンガルーケアを2時間過ごすことができました。「裕くんが無事産まれた。私のところにやってきてくれた。やっと逢えた。」心から嬉しくて涙がこぼれました。小さな小さな命。1658gで産まれた裕貴は産毛が濃く、一見顔立ちからは何の病気もない天使みたいな赤ちゃんでした。

その後の初診で18トリソミー特有の症状を患っていて、食道閉鎖が心臓疾患より致命傷で唾液がたまらないよう吸引してもらっていました。初乳を注射器に入れて綿棒で染み込ませお口に含ませてあげました。わずかに口をつぼめ、とてもかわいい素敵な瞬間でした。翌日上の子を裕貴と会わせることができました。「裕貴くんかわいい!」娘も3才にしてしっかり弟として見ていました。先生方の協力で1日目は4時間、2日目は8時間 母子同室の時間をとれました。沢山ぎゅーしたり、話したり、歌ったり、おっぱいを絞ってあげたり、大好きをいっぱい伝えました。NICUのスタッフがお迎えにくると、急に泣き出して驚くこともありました。3日目は沐浴、その後カンガルーケアが叶いました。

そして4日目。娘の幼稚園面接で病院を出ようとした時、裕貴がもう危ないというお知らせでした。NICUからファミリールームで裕貴を抱き、目を開けて小さく息をする裕貴に言いました。「たくさんたくさん、よく頑張ったね。こんなに小さな体でこんなに大きな荷を背負って…ママは沢山あなたに幸せにしてもらったよ。本当にありがとう。裕くん、大好きよ。ママを選んでくれてありがとう。裕くんのママにしてくれてありがとう。パパを待ってるの?すぐ来るからね。」パパはこんなに早く?という戸惑いの表情で抱き、ありがとうの写真を撮りました。40分後、裕貴は苦しそうな顔を1つせず私たちを見つめ、私たちの言葉を聞きながら、お空へ行きました。

母乳をいれてた注射器を解凍し、母乳風呂にしてパパと娘を入れてあげました。裕貴はたくさんの私の願いを叶え、最後はみんなが揃ったこの日、この時間を望んで後悔させないようタイミングを取り繕ってくれました。本当に優しく、強く、寛大で、名前の通りの子でした。18トリソミーで食道閉鎖を患っている子に、母子同室をすすめたのは初めてだったそうです。彼の頑張りと先生方の全面協力に心から感謝しています。

49日、お墓には『絆』の文字を刻みました。産む幸せ、子どもを宿す奇跡、私は裕貴を通してたくさんの貴重な体験をすることができました。産む時は赤ちゃんもママも痛みに苦しみながら体を張って出産するわけですから、ママと子供の絆ってそこから繋がっているように思います。子育てをしながら学ぶことがありますが、裕貴との体験から命がお腹に宿ったときから既になのかもわかりません。マタニティは人生でとても不思議で素敵なことです。私は2人のママにさせてもらったことに心から感謝します。そして女として産んでくれた私の母にも感謝しています。私達家族の絆は永遠です。
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赤ちゃんのうまれたときをご利用いただきました

  1. 「アルバムえほん」井手 より: より:

    ひろきくんのお名前の由来、コメントの1つ1つ、ご両親からのメッセージ…
    すべてのページにご両親からひろきくんへの愛情があふれていて
    本当に“家族の絆”を心から感じた1冊でした。
    素敵な絵本を読ませていただき、本当にありがとうございます。

  1. albumehonより:

    ひろきくんがママの受賞を知って、またグーの手をしてくれますように。
    絵本の作成、そして丁寧なお便り、本当にありがとうございました。

  1. ohayo-koより:

    短い命は前世で「もう一度だけでいいから逢いたい」と
    願ってこの世にやってくると聞いたことがあります。
    ひろきくん、ママに抱いてもらえてよかったです。

  1. ちびっこママより:

    良いことも悪いことも全てを受けいることを母性だ、
    という事を思い出しました。
    ひろき君のママのおたよりを読んで私も主人も感動で涙が流れました。
    そして、3日という短いけど美しい人生を生きたひろきくんのことを
    このページを通して出会えたことを嬉しく思います
    ありがとうございました。

  1. ehonnより:

    ★受賞者の柏木様からメールをいただきましたので、転載させていただきます。柏木様ありがとうございます
    素敵な賞をありがとうございます。とても嬉しく思います。昨日が祥月命日で、早速裕貴にお伝えしました。
    この絵本は裕貴のメモリアルとして作成しました。ベルギーにいる姉が手元に置きたいと2冊目を船便で送りました。
    1ヵ月検診の時に裕貴を産んだこども医療センターの先生達に仕上がった絵本をお見せしました。NICUのところで病院用に置かせて頂きたいと、担当の先生より依頼があり、病院用の3目を作ったところでした。ぜひこの賞についてもご報告したいと思います。
    沢山の方に少しでも何かのお役に立てたら嬉しいです。
    本当にありがとうございます。心より感謝します。
    柏木

  1. みどりより:

    ひろき君ママ、大賞受賞おめでとうございます\(^o^)/
    お知らせをいただいてとても嬉しいです♪

    ひろき君が「ありがとう」と伝えてくれているお写真が可愛くてかわいくて…
    じゅんこさんの切ないけれど愛に満ち溢れる笑顔が誇らしくて…微笑みながら涙ぐんでしまいました。
    ご家族の愛の絆を結びにきてくれたひろき君、「生れてくれてありがとう」

  1. ダックより:

    生命あるものは必ず死す。
    年老いた両親の死は涙なしに見送りました。
    でもこの絵本、純子さんの手記からは涙があふれて止まりません。
    神はその人が乗り越えられる試練しか与えない。
    その試練により、おのおのの魂が、さらに成長する。
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    この世には命より大事なものがある。
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    そんなことをしみじみと思います。
    ひとりひとりがそんな思いを持ち
    家族を日本を、さらに世界へと
    広がることを念じています。

 
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